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【エスター】 実話モデルの事件の解説。映画が悪用され新たな事件も発生していた

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【エスター】 実話モデルの事件の解説。映画が悪用され新たな事件も発生していた サムネ

映画『エスター』(2009年)は、子どもに成り済ました大人の女性が養子として一家に送り込まれ、次々と恐怖をもたらすというスリラー作品です。

このストーリーには実際に起きた衝撃的な事件が元ネタになっています。

この記事では、

  • 映画『エスター』のモデルとなった2つの実在の事件
  • バルボラ・シュクルロヴァさんとナタリア・グレースさんのプロフィール
  • それぞれの事件の詳しい時系列
  • 映画と実話の違い
  • 映画が現実社会に与えてしまった影響

こちらを解説していきます。

『エスター』は実話を元ネタにした作品

結論からいうと、映画『エスター』は実話を元ネタにした作品です。

脚本を書いたデイヴィッド・レスリー・ジョンソンさんが着想を得たのは、2007年にチェコで発覚した「クジーム児童虐待事件」。

この事件では、バルボラ・シュクルロヴァさんという当時33歳の女性が、

ホルモン異常によって小柄な体格のまま成長が止まっていたことを利用し、12歳の少女として家庭に潜り込んでいたのです。

さらに映画公開後には、まったく別の悲劇が生まれました。

アメリカで養子として迎えられた障害を持つ女の子、ナタリア・グレースさんが、

養親夫妻によって「映画のエスターのような成り済まし犯」に仕立て上げられ、アパートに遺棄されるという事件にまで発展しました。

映画が生んだ2つの実話のひとつは映画のモデルとなった事件、もうひとつは映画によって引き起こされた悲劇。

どちらも非常に衝撃的な内容なので、順番に見ていきましょう。

映画のモデル:バルボラ・シュクルロヴァとは何者か

まずは、映画の直接的なモデルとなったバルボラ・シュクルロヴァさんのプロフィールを見てみましょう。

名前バルボラ・シュクルロヴァ(Barbora Škrlová)
生年1974年(事件当時33歳)
出身チェコ共和国
身体的特徴下垂体機能低下症によって身長約157cmの小柄な体格のまま成長が止まっていた
犯罪内容12歳の少女「アニチカ」および13歳の少年「アダム」として身元を偽装。児童虐待事件に加担
判決禁錮5年(2012年8月1日に仮釈放)

シュクルロヴァさんは「下垂体機能低下症」というホルモン異常によって、外見上は子どもにしか見えない体格のまま大人になった女性です。

この身体的特徴を利用して複数の身元を偽装し、複数の国にまたがって逃亡を続けたことが世界に衝撃を与えました。

映画が悪用された事件:ナタリア・グレースとは何者か

もうひとりの主役、ナタリア・グレースさんのプロフィールです。

名前ナタリア・グレース(出生名:ナタリア・ヴァディミヴナ・ガヴァ)
生年月日2003年9月4日
出身ウクライナ・ミコライウ
身体的特徴先天性脊椎骨端異形成症(SEDc)による骨格の成長不全。小人症を伴う
経緯2010年、バーネット夫妻に養子として引き取られるも虐待・遺棄される
現在デポール夫妻のもとで生活。車の運転免許取得に向けて前向きな日々を送っている

ナタリアさんは先天性の骨格疾患を抱えながら、複数の養親家庭を転々とした女性です。

映画『エスター』のイメージを悪用した養親夫妻によって「大人が子どもに成り済ましている」とのレッテルを貼られ、

法的にも社会的にも長年にわたって苦しめられました。

実話①の時系列:バルボラ・シュクルロヴァ事件

2006年〜2007年初頭:「アニチカ」としてクジームの家庭に潜入

シュクルロヴァさんは、チェコ・クジームに住むクラーラ・マウエロヴァさんの家庭に「12歳の養女アニチカ」として入り込みました。

クラーラさんとその姉カテジナ・マウエロヴァさん、そしてシュクルロヴァさんが所属していたのは、ドイツに起源を持つカルト的な宗教団体です。

団体の歪んだ教えのもと、クラーラさんの実の子である2人の男児(オンドレイくんとヤクブくん)が

約1年にわたって監禁・拷問・肉体的虐待を受け続けていました。

2007年春:事件発覚とシュクルロヴァさんの逃亡

事件が発覚したのは、偶然の出来事がきっかけでした。

近隣住民が設置していた家庭用ベビーモニターが混線し、

裸で縛られてクローゼットに閉じ込められたオンドレイくん(8歳)の映像を受信したのです。

警察が突入してクラーラさんが逮捕されると、シュクルロヴァさんは一時的に児童一時保護施設に「アニチカ」として収容されました。

しかし職員の目をかいくぐり、施設から逃亡に成功します。

2007年9月:ノルウェーで「少年アダム」として学校に入学

シュクルロヴァさんはデンマークを経由してノルウェーへ渡り、

今度は「13歳の少年アダム」として別の身分を作り上げました。

頭髪を完全に剃り落とし、胸部をさらしで強く縛り上げることで、

オスロのマリエンリースト学校に「アダム」として入学することに成功したのです。

チェコ人の劇団関係者マルティン・ファールネルさんの協力を得て、少年として生活を送り始めました。

2007年12月:施設から逃亡・国際指名手配

2007年12月中旬、「アダム」が児童養護施設から行方不明になり、ノルウェー警察が大規模な捜索を開始しました。

顔写真つきの国際指名手配が出され、ヨーロッパ中で行方を追われることになります。

2008年1月5日:トロムソで拘束・DNA検査で素性が判明

2008年1月5日、ノルウェー北部の北極圏にある都市トロムソで「アダム」が警察に拘束されました。

DNA検査の結果、「13歳の少年」と思われていた人物の正体が

「33歳のチェコ人逃亡犯バルボラ・シュクルロヴァ」であることが判明。

この衝撃的な事実はヨーロッパ全土に報道され、大きな衝撃を与えました。

2008年10月:有罪判決と禁錮5年

チェコへ強制送還されたシュクルロヴァさんは、

ブルーノ地方裁判所でクジームの児童虐待事件への加担が認定され、禁錮5年の実刑判決を受けました。

同じく有罪となった共犯者たちには5〜10年の刑が下されています。

2012年8月1日:仮釈放

シュクルロヴァさんは刑期の大部分を務めた後、

2012年8月1日に7年間の保護観察付きで女子刑務所から仮釈放されました。

実話②の時系列:ナタリア・グレース事件

2003年9月4日:ウクライナで誕生

ナタリアさんは2003年9月4日、ウクライナのミコライウで生まれました。

生まれつき「先天性脊椎骨端異形成症(SEDc)」という骨格の成長不全を伴う疾患を持っており、現地の孤児院に預けられました。

2008年:アメリカへ

ニューハンプシャー州のシコーネ夫妻に引き取られて渡米しましたが、その後シコーネ夫妻は養育権を手放しました。

2010年春:バーネット夫妻に養子として引き取られる

インディアナ州に住むクリスティン・バーネットさんとマイケル・バーネットさんの夫妻がナタリアさんを養子として迎えました。

クリスティンさんは自閉症の息子をギフテッド教育で育て上げた経験から「スターマザー」として全米で注目されていた人物です。

当初はディズニーランドへの旅行を企画するなど、良好な家族関係が続いていたとされています。

2011年後半:「大人説」の捏造が始まる

しかし、やがてバーネット夫妻はナタリアさんに対して強い拒絶感を示すようになりました。

夫妻は周囲に対して

「ナタリアは子どもではなく、大人の女性が幼児に成り済ましている」

という主張を展開し始めます。

さらには

  • コーヒーに洗浄液を混入されて毒殺されかけた
  • 夜中にナイフを持って枕元に立ち、「お前の時間は終わりだ」と囁かれた

などの具体的なエピソードを語り始めました。

しかし、ナタリアさん本人は後に

「SEDcの関節の状態では指を曲げてナイフを握ることすら物理的に不可能だ」

と反論しています。

ナタリアさんによれば、クリスティンさん自身が毒殺未遂の自作自演をし、

日常的にベルトでの殴打やペッパースプレーを眼球に浴びせるなどの虐待を行っていたとのことです。

2012年:裁判所が出生年を書き換え

バーネット夫妻はインディアナ州の地方裁判所に対し、

ナタリアさんの出生年を「2003年」から「1989年」に変更するよう申し立てました。

驚くべきことに、この申し立てが認められてしまいます。

こうして、8歳だったはずのナタリアさんが法的に「22歳の成人」とされてしまったのです。

2013年7月:アパートへの遺棄

法的に「成人」となったことで責任を逃れたバーネット夫妻は、

2013年7月、ラファイエットの安アパートにナタリアさんを一人で放置してカナダへ移住しました。

しかし、歩行補助器(ウォーカー)の使用も禁じられた状態で、

  • アパートの棚・コンロ・郵便ポスト

のすべてが小人症を持つナタリアさんの手が届かない高さにあったのです。

ナタリアさんは食事もとれず、脱水と飢えに苦しみながら床を這って近隣住民に助けを求める生活を強いられました。

2013年後半:牧師夫妻による救出

ナタリアさんの悲惨な状況に気づいた地元の牧師アンツォン・マンスさんと、その妻シンシア・マンスさんが彼女を保護しました。

マンス夫妻はその後、ナタリアさんの法的後見人となり、2023年6月には正式に養子縁組が完了しています。

2019年〜2023年:バーネット夫妻の起訴と裁判

2019年9月、バーネット夫妻が「依存者遺棄罪(ネグレクト)」で刑事起訴されました。

しかし2022年10月のマイケル・バーネットさんの裁判では、

裁判所が「2012年の法的年齢変更は有効」との立場をとったため、「成人障害者遺棄」として審理され無罪判決となりました。

2023年3月には、クリスティン・バーネットさんに対するすべての罪も管轄外・時効を理由に却下されています。

2023年8月:DNA検査で2003年生まれと証明

2023年8月、TruDiagnostic社によるエピジェネティックなDNA検査によって、

ナタリアさんの実年齢が「約20〜22歳」と推定されました。

これは2003年生まれとほぼ一致する数値であり、ナタリアさんが主張し続けていた生年が科学的に証明されたことになります。

2023年12月:デポール家での新生活

マンス家でも生活上の制約が増えていく中、

ナタリアさんは2009年に一度引き取ろうとしていたニューヨーク州のデポール夫妻に連絡を取りました。

2023年12月、ナタリアさんはデポール夫妻のもとへ移り、現在は車の運転免許取得やGED試験合格に向けて前向きな日々を送っています。

映画『エスター』と実話の違い

項目映画での描写実際の事実
主人公の出身エストニア出身の33歳の女性「リーナ・クラマー」チェコ出身の33歳の女性「バルボラ・シュクルロヴァ」
身体的な異常下垂体機能低下症による成長停止下垂体機能低下症に類するホルモン分泌障害
偽装した人物孤児院の9歳の少女「エスター」一人12歳の少女「アニチカ」→ 13歳の少年「アダム」と複数回偽装
被害者養子を迎えたコールマン家の家族家庭内の男児2人(監禁・拷問・虐待)
動機父親を誘惑し、拒絶されると一家を皆殺しにするカルトセクトの指示による組織的な児童虐待への加担
結末精神科病院からの逃亡犯として正体が発覚し、射殺される逮捕・強制送還。禁錮5年の実刑後、2012年に仮釈放

「単独犯」ではなくカルト組織の一員だった

映画のエスター(リーナ)は、個人の意志で家庭に潜り込み、一人で計画を実行する「頭脳的な単独犯」として描かれています。

しかし、実際のシュクルロヴァさんはカルト的な宗教団体の一員であり、父親が率いる組織の指示のもとで動いていた側面が強かったようです。

裁判においても、なぜこのような行為に及んだのかという精神的な動機は最後まで完全には解明されませんでした。

実際の逃亡先はノルウェーで、少年にも変装した

映画のエスターは孤児院や精神科施設を転々とする過去が描かれますが、

実際のシュクルロヴァさんは事件発覚後にノルウェーへ逃亡し、少女から少年へと変装を切り替えています。

髪を剃り、胸部を縛って男性として学校に通い続けたこの事実は、映画よりもさらに驚くべき話といえるでしょう。

映画『エスター』が現実に与えてしまった影響

映画『エスター』が社会に与えた影響のうち、最も深刻だったのがナタリア・グレースさんの事件です。

バーネット夫妻は、ナタリアさんが反抗的な態度をとるたびに

「映画のエスターと同じ成り済まし犯だ」

と周囲に吹き込み、インディアナ州の裁判所までその主張を認める事態になりました。

客観的なウクライナの出生証明書や骨格の医学的診断よりも、「映画の殺人鬼に似ている」という感覚的な印象が優先されてしまったのです。

先天性の骨格疾患(SEDc)は「下垂体機能低下症」とはまったく別の病気であり、反社会的な暴力性とは何の関連もありません。

それにもかかわらず、映画が作り上げたイメージが、実在する障害を持つ子どもを怪物に仕立て上げる道具として使われてしまいました。

脚本家はどう語ったか

映画の脚本を手掛けたデイヴィッド・レスリー・ジョンソンさんは、

『エスター』が養子縁組に対する社会的な不安を煽る作品として見られたことに、困惑を覚えたようです。

ジョンソンさんはインタビューの中で次のように述べています。

「この物語の根底にある恐怖の本質は、家庭という安全な場所の内部に、

外部から未知の悪意が滑り込んでくるというサスペンスの手法だ」

ジョンソンさんは、現実の養子縁組のケースをそのままモデルにしたわけではなく、

家庭の中に入り込む「未知の存在への恐怖」を描いた作品だと主張しています。

しかし、映画が現実社会に及ぼした影響は、制作者の意図をはるかに超えたものになりました。

ドラマ・ドキュメンタリーでも取り上げられる

ナタリア・グレースさんの事件は、その後も注目を集め続けています。

2025年1月にはドキュメンタリー番組がアメリカで放映され、

同年3〜4月にはHuluでドラマ『Good American Family』も配信されました。

ドラマ『Good American Family』は前半をクリスティン・バーネットさんの視点で、

後半をナタリアさんの視点で描く構成で、「人はいかに弱者を怪物に仕立て上げるか」という問いを正面から描いた作品として高く評価されています。

まとめと人気の実話解説記事

  • 映画『エスター』は2007年にチェコで発覚したバルボラ・シュクルロヴァさんの身元偽装事件を元ネタにした作品だった
  • シュクルロヴァさんはホルモン異常で子どものような外見のまま成長が止まった33歳の女性で、12歳の少女や13歳の少年として複数の国で偽装生活を送っていた
  • 映画公開後、アメリカでは骨格疾患を持つ養子ナタリア・グレースさんが「映画のエスターと同じ成り済まし犯」として養親夫妻に虐待・遺棄される事件が起きた
  • バーネット夫妻は裁判所を動かしてナタリアさんの出生年を書き換え法的に「成人」として放置し、刑事裁判では無罪・起訴取下げとなった
  • 2023年のDNA検査でナタリアさんが2003年生まれであることが科学的に証明され、現在はデポール夫妻のもとで新しい生活を歩んでいる
  • 映画が作り上げたイメージが現実の弱者を傷つける道具として使われた事例として、世界的に深刻な教訓を残した事件となった

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