アルツハイマーを患った父が、歌声だけは失わなかった・・・。
映画『父と僕の終わらない歌』は、イギリスの実在する父子・テッドとサイモン・マクダーモットさんの物語を基にした作品です。
この記事では、
- 映画『父と僕の終わらない歌』が実話かどうか
- 実在モデル・テッド・マクダーモットさんとはどんな人物か
- 実話の時系列と世界を動かした動画の経緯
- 映画と実話の違い
- 制作者が日本に舞台を移した理由
こちらを解説していきます。
『父と僕の終わらない歌』は実話をモデルにした作品
結論から言うと、映画『父と僕の終わらない歌』は
イギリス実在の父子・テッドとサイモン・マクダーモットさんの物語をモデルにしています。
原作はサイモンさんが著したノンフィクション書籍で、
日本語版は2018年に『父と僕の終わらない歌』のタイトルで刊行されています。
映画は舞台をイギリスから神奈川県横須賀市に移し、父を寺尾聰さん、息子を松坂桃李さんが演じています。
実在モデル・テッド・マクダーモットさんとはどんな人物か
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名前 | テッド・マクダーモット(Ted McDermott) |
| 映画での名前 | 津村哲太(演:寺尾聰) |
| 生年 | 1936年 |
| 出身地 | ウェッジベリー(イングランド) |
| 家族構成 | 14人兄弟の長男。 |
実在するモデルのテッドさんは工場勤務のかたわら、地元のパブやクラブで歌い続けたアマチュア歌手でした。
1分以内にどんな曲でも歌えることから「ソングアミニット・マン」の愛称で地元に親しまれた人物です。
『父と僕の終わらない歌』の実話の時系列
1936年〜1970年代:工場に働きながら歌い続けた人生
実在モデルのテッドさんは、1936年にウェッジベリーで14人兄弟の長男として生まれます。
10代のころから工場で木材加工の仕事をしながら、
毎日異なる曲の歌詞を覚え独学で歌の腕を磨いたとされています。
フランク・シナトラ、アル・マルティーノ、
トニー・ベネット
たちの楽曲を地元のパブ・クラブ・ホテルで歌い続け、
「ソングアミニット・マン」として知られるようになりました。
1970年代には、リゾートでエンターテイナースタッフとして働いていたテッドさんを、
妻となるリンダさんが観客として見て出会い、交際・結婚。
息子のサイモンさんが誕生します。
2011年〜2013年:アルツハイマーの発症と診断
2011年ごろ、家族がテッドさんの記憶喪失の兆候に気づき始めます。
明るく陽気だった性格が一転して怒りっぽくなり、言動に異変が生じるようになりました。
2013年、アルツハイマー型認知症と正式に診断されます(当時77歳)。
昼夜問わず感情が不安定になり、
実の息子サイモンさんのことさえ認識できなくなる場面も増えていきました。
息子のサイモンさんはロンドンでのマーケティング職を辞めて故郷に戻り、
母リンダさんとともに父の介護にあたることを決意します。
2015年〜2016年:「カープール・カラオケ」が世界で6000万回再生
息子のサイモンさんは介護の中で、
テッドさんが大好きな曲を歌っているときだけ別人のように生き生きとすることに気づきます。
これをテッドさんが完璧な音程で歌えることを発見しました。
2015年5月ごろ、ランカシャーのクリザロー付近をドライブしながら車内で父と歌う様子を動画撮影。
Facebookおよびアルツハイマー協会のクラウドファンディングページとともにYouTubeにアップロードします。
動画は急速に拡散し、最終的に6,000万回以上の再生を記録。
世界中で「カープール・カラオケ」として報道され、
アルツハイマー協会への寄付金は15万ポンド(日本円で約2,500万円以上)超を集めました。
2016年秋、テッドさんはデッカ・レコードと契約し、
シングル
「You Make Me Feel So Young」
「Quando, Quando, Quando」
をリリース。
当時80歳でのイギリス最高齢の新人歌手としてデビューを果たします。
2016年10月にはプライド・オブ・ブリテン賞で特別功績賞を父子で受賞しました。
2017年〜2018年:書籍出版とアルバムリリース
2017年、クラウドファンディングで制作したアルバム『Songaminute』をリリース。
同年、サイモンさんが父との日々を綴ったノンフィクション
The Songaminute Man: How Music Brought My Father Home Again
を刊行します。
2018年12月には日本語版『父と僕の終わらない歌』がハーパーコリンズ・ジャパンより刊行されました。
2023年以降:施設での生活へ
2023年ごろ、テッドさんは87歳となり、アルツハイマーの進行により介護施設での生活となっています。
妻リンダさんも他界したとされています。
テッドさんは現在もサイモンさんや家族との面会を続けており、
記憶障害があっても音楽を聴くと反応を見せるそうです。
映画『父と僕の終わらない歌』と実話の違い
基本設定の変更点
| 項目 | 実話 | 映画 |
|---|---|---|
| 舞台 | イングランド・ランカシャー州ブラックバーン | 神奈川県横須賀市 |
| 時代設定 | 2010年代〜2016年 | 現代の日本 |
| 父の名前 | テッド・マクダーモット | 津村哲太(演:寺尾聰) |
| 息子の名前 | サイモン・マクダーモット | 津村雄太(演:松坂桃李) |
| 父の職業 | 工場勤務のかたわらパブで歌うアマチュア歌手 | 横須賀で楽器店を経営しながらステージに立つシンガー |
| 息子の職業 | ロンドンのマーケティング会社勤務 | イラストレーター |
舞台が横須賀に変更された理由
舞台が横須賀に選ばれたのには理由があります。
横須賀は米軍基地がある港町であり、戦後から洋楽文化が根付いている土地柄です。
映画の父・哲太さんが若いころから洋楽スタンダードに親しんでいたという設定に、
横須賀という街の文脈が自然に合致するとしてプロデューサーの渡久地翔さんが選定したとされています。
息子が同性愛者という設定が追加されている
映画では息子・雄太が同性愛者という設定が追加されています。
実話のサイモンさんについて、書籍には同性愛に関する記述はありません。
「孫の顔を見せられない」
という父への後ろめたさが父子のドラマの核のひとつになっており、実話にはない設定が加えられています。
父子の不仲が映画オリジナルで深められている
| 要素 | 実話 | 映画 |
|---|---|---|
| 息子が音楽を諦めた経緯 | 記載なし | 「父のためにレコードデビューの夢を諦めた」という過去が設定されている |
| 父子の関係 | 介護を通じて関係が深まる様子が中心 | 夢を諦めた負い目・同性愛者で孫を見せられない後ろめたさが不仲の核になっている |
| 動画配信 | YouTube(カープール・カラオケ形式の車内動画) | SNS投稿(映画の設定に依存) |
実話では父と息子が介護を通じて絆を取り戻す様子が記録されています。
しかし、映画では息子側に複数の負い目を持たせることで、
「言葉にできなかった想いを歌が橋渡しする」
というドラマの軸が強化されています。
楽曲の違い
実話でテッドさんの代表曲とされているのは
「Quando, Quando, Quando」
(歌手・エンゲルベルト・フンパーディンク作)
です。
映画では
- Smile
- What Now My Love
- Love Me Tender
- Beyond the Sea
- Volare
など洋楽スタンダードを中心に構成されています。
【父と僕の終わらない歌】の制作者が伝えたかったこと
プロデューサーの渡久地翔さんはこのように語っています。
「サイモンさんの本を読むと、
アルツハイマーは父と息子のドラマが始まるきっかけでしかなかったと思えます。
主題は病気ではなく父子の絆のほう。
そこを映画で描きたいと思った。」
小泉徳宏監督さんは脚本制作において
「父が自分のことを本当はどう思っていたのか、
今となっては分からない問いに息子が自分なりの答えを見つける姿」
を最も重要な柱と位置づけました。
実話の要素を取捨選択しながら、
「父と息子の間にある言葉にならなかった想い」を描くことに集約させる形で脚本を仕上げたと監督は述べています。
まとめと人気の実話解説記事
- 映画『父と僕の終わらない歌』はイギリスの実在する父子・テッドとサイモン・マクダーモットさんの物語を基にした作品
- テッドさんは「Songaminute Man」の愛称で地元に親しまれたアマチュア歌手で、2013年にアルツハイマー型認知症と診断された
- 車内で父と歌う動画がYouTubeで6,000万回以上再生され、80歳でのレコードデビューという実話のコアは映画にも引き継がれている
- 映画では舞台をイギリスから横須賀に移し、息子を同性愛者にするなど日本の観客向けに大幅に再構築されている
- 父子の不仲(夢を諦めた負い目・孫を見せられない後ろめたさ)は映画オリジナルで追加された要素で、実話の書籍には記載がない
- 制作者は「病気ではなく父子の絆が主題」と強調しており、実話の精神を受け継ぎながら独自の家族ドラマとして完成させている