映画『死霊館』は、実在の心霊研究家エド&ロレイン・ウォーレン夫妻が1970年代に調査した、
ロードアイランド州ハリスビルのペロン一家の怪奇体験をもとに作られた作品です。
この記事では、
- 『死霊館』が実話を元にした作品かどうか
- ペロン一家とウォーレン夫妻のプロフィール
- 実際に起きた出来事の詳しい時系列
- 映画と実話の主な違い
- 映画公開後に農家で起きた波乱の出来事
こちらを解説していきます。
『死霊館』は実話を元にした作品
結論からいうと、映画『死霊館』は実際に起きたとされる心霊体験をもとに作られた作品です。
2013年に公開されたジェームズ・ワン監督の『死霊館』は、
世界で3億ドル以上の興行収入を記録した大ヒットホラー映画です。
原案となったのは、1971年から1980年にかけて
ロードアイランド州ハリスビルの農家に住んでいたペロン一家(両親と5人の娘)が体験した、怪奇現象の記録です。
この一家の体験を調査したのが、心霊研究家のエド・ウォーレンさんとロレイン・ウォーレンさんの夫妻でした。
しかし、映画は「実話に基づく」としながらも、劇的な演出のために事実を大きく改変している部分が多くあります。
映画が描く「呪われた魔女バジバ」の物語は、歴史的な記録とはかなりかけ離れたものでした。
ペロン一家とウォーレン夫妻のプロフィール
まずは、事件の中心人物となったペロン一家の構成を確認しておきましょう。
| 氏名 | 役割 | 生年月日・出生地 | 備考 |
|---|---|---|---|
| ロジャー・ペロン | 父親 | 1935年8月27日/ロードアイランド州プロビデンス | 配管事業の破綻で経済的困難に |
| キャロリン・ペロン | 母親 | 1939年8月 | 降霊会で最も激しい憑依現象を体験したとされる |
| アンドレア・ペロン | 長女 | 1958年10月10日/ロードアイランド州 | 体験を三部作『House of Darkness House of Light』として出版 |
| ナンシー・ペロン | 次女 | 1960年2月8日/コネティカット州 | 多数の怪奇現象に遭遇したとされる |
| クリスティーン・ペロン | 三女 | 1961年1月30日/コネティカット州 | 当時のことを語ることを最も避けている |
| シンシア・ペロン | 四女 | コネティカット州 | 家の壁の中の戦死者の声を聴いたとされる |
| アプリル・ペロン | 五女 | コネティカット州 | 少年の幽霊「ジョン」と友達になったとされる |
一家を調査した心霊研究家のウォーレン夫妻については、
エドさんが1926年9月7日、
ロレインさんが1927年1月31日にともにコネチカット州ブリッジポートで誕生しています。
2人は1952年に「ニューイングランド心霊研究協会(NESPR)」を設立し、
以来アメリカ各地の心霊事件を調査し続けた夫婦です。
バジバ・シャーマンとは何者だったのか
映画では「農家を呪う悪の魔女」として描かれているバジバ・シャーマンさんですが、実際の記録はまったく異なります。
| 項目 | 歴史的記録に基づく事実 |
|---|---|
| 本名 | バジバ・セイヤー(結婚後はバジバ・シャーマン) |
| 誕生 | 1812年(エフライム・セイヤーとハンナ・タフトの娘として誕生) |
| 結婚 | 1844年3月10日、農夫ジャドソン・シャーマンさんと結婚 |
| 子供 | 1849年生まれの息子ハーバート・L・シャーマンさんを育て上げた |
| 居住地 | 生涯を通じて隣接するシャーマン農場に居住。ペロン家の農家に住んだことはない |
| 死亡 | 1885年5月25日、高齢による脳卒中で死亡。教会の墓地に埋葬 |
バジバさんは1885年に73歳で亡くなっており、その死因は脳卒中による麻痺でした。
映画で語られる「首を吊って自殺した魔女」という設定は史実とは違い、
彼女は実際にはキリスト教会の神聖な墓地に埋葬された信仰深いキリスト教徒だったのです。
「バジバが農家を呪っている」という図式は、
キャロリン・ペロンさんが足に針で刺されたような傷を負った際、
ロレインさんが
「近隣に住んでいた幼児殺害容疑のバジバという女性の霊に違いない」
と直感的に断定したことで作られたものです。
バジバさんが実際に住んでいたのはペロン家の農家から南東に約1マイル離れたシャーマン農場であり、
農家に住んでいたという記録は存在しません。
『死霊館』の実話モデルの時系列を詳しく解説
1812年〜1885年:バジバ・シャーマンさんの生涯
映画の怨霊として描かれたバジバ・セイヤーさん(後のバジバ・シャーマンさん)は1812年に誕生しました。
1844年に農夫のジャドソン・シャーマンさんと結婚し、1849年には息子ハーバートさんを育て上げます。
近隣の乳児を針で刺して殺したという魔女裁判の容疑をかけられたことはありましたが、
当時証拠不十分で釈放されており、有罪判決は受けていません。
1885年5月25日、73歳で高齢による脳卒中のために死亡し、ハリスビル中心部の洗礼堂墓地に埋葬されました。
1952年:ウォーレン夫妻が心霊研究協会を設立
エドさんとロレインさんのウォーレン夫妻は1952年に
「ニューイングランド心霊研究協会(NESPR)」を設立します。
以来、アメリカ各地で数多くの心霊事件を調査してきた夫婦で、『死霊館』シリーズの核となる実在の人物です。
1971年:ペロン一家がハリスビルへ引越し
1970年冬、ロジャーさんとキャロリンさんのペロン夫妻が、
約200エーカーの広大な敷地を持つ「オールド・アーノルド・エステート(アーノルド邸)」を購入します。
1971年1月、夫妻と5人の娘たちがハリスビルの農家に引っ越してきました。
引越し直後から怪奇現象が始まったそうで、
- 家の中での物音
- 見知らぬ人影の目撃
- 悪臭
など多くの怪奇現象が報告されています。
1973年:ウォーレン夫妻が初めて調査に訪問
近隣でペロン家の怪奇現象が噂となり、1973年頃にウォーレン夫妻が農家への調査に初めて訪れます。
これが映画のストーリーの核心部分にあたりますが、
実際の展開は映画とはかなり異なるものでした。
1974年:降霊会とウォーレン夫妻の退去
ロレインさんの主導により、農家にて降霊会(セアンス)が行われます。
その中で、キャロリンさんがトランス状態となって椅子ごと宙に浮き、部屋の壁に叩きつけられたとされています。
事態を目の当たりにしたロジャーさんは
「妻の命が危ない」
と判断してウォーレン夫妻をその場で追い出し、
それ以降、敷地内への立ち入りは二度と許しませんでした。
1980年:経済的困窮によりペロン一家が退去
1980年6月、配管の破裂による事業の水害と深刻な経済的困窮により、ペロン一家はハリスビルから退去します。
土地は200エーカーから8.5エーカーへと大幅に縮小されて売却され、約10年間の農家生活に幕を閉じました。
映画のような「悪魔祓いによる解決」はなく、退去の理由はあくまでも経済的な事情だったのです。
2013年:映画『死霊館』が世界公開
2013年7月19日、ジェームズ・ワンさん監督の映画『死霊館』が全米公開され、世界的な大ヒットを記録します。
これをきっかけにハリスビルの農家の知名度が急上昇し、現地に深刻な問題が次々と発生していくことになります。
映画『死霊館』と実話の違い
映画と実話の間には、いくつかの重大な違いがあります。
| 項目 | 映画での描写 | 実際の事実 |
|---|---|---|
| バジバ・シャーマン | 魔女として我が子を捧げ、首を吊って自殺し土地を呪った | 脳卒中で死亡した信仰深いキリスト教徒。農家に住んだことすらない |
| 怨霊の正体 | バジバ一人が主な悪霊 | アビゲイル・アーノルドを含む複数の霊が存在したとされる |
| エクソシズム | エドがキャロリンに悪魔祓いを施し劇的な勝利を収める | 降霊会(セアンス)のみ。エドは悪魔祓いの資格を持たない |
| 結末 | ウォーレン夫妻が一家を救う感動的な解決 | ロジャーがウォーレン夫妻を追い出し、一家は経済的事情で退去 |
| バジバの親族 | セーラム魔女裁判で処刑されたメアリー・タウニー・イースティの親族 | 歴史的な証拠は一切なし |
バジバ・シャーマンは「魔女」ではなかった
映画最大の誇張が、バジバ・シャーマンさんを「悪魔崇拝の魔女」として描いた点です。
実際のバジバさんは73歳で高齢の脳卒中により亡くなっており、神聖なキリスト教の墓地に葬られています。
「バジバが幼い赤ちゃんを殺した魔女だった」という設定は、
証拠不十分で釈放されており有罪判決を受けた事実がないため、史実とはかけ離れた創作となっています。
そもそもバジバさんが生涯住んでいたのはペロン家の農家ではなく、1マイルほど離れたシャーマン農場でした。
実際の農家には複数の「霊」がいた
ペロン一家が体験したとされる怪異は、映画が強調するような
「バジバ一人の呪い」よりはるかに色々な原因があるものでした。
長女のアンドレアさんや次女のナンシーさんによれば、
家族を最も苦しめた怨霊の正体は「アビゲイル・アーノルド」という女性だったとのこと。
アビゲイルさんは1797年に農家の納屋で93歳のときに首を吊って自殺したとされており、
強いスコットランド訛りで話す霊として子供たちの枕元に現れては「キャロリンを殺せ」と囁いたといいます。
ほかにも末娘アプリルさんと友達になった「ジョン」という名の5〜6歳の少年の霊や、
「オリバー・リチャードソン」という比較的友好的な少年の霊なども存在したとされています。
悪魔祓いは行われていない
映画最大の山場である「エドによる悪魔祓い」は、実際には行われていません。
エドさんは悪魔祓いを行う聖職者の資格を持っておらず、ロレインさん自身も次のように語っています。
「私たちは悪魔祓いなど決して行わない。
それはカトリックの司祭にのみ許された特権です」
農家で実際に行われたのは降霊会(セアンス)であって、
その結果としてウォーレン夫妻はロジャーさんに激怒して追い出されています。
映画が描く「夫婦が一家を救う感動的な結末」は、脚本家たちによる創作といえるでしょう。
当事者たちが語る10年間の体験
映画公開後、ペロン一家の各構成員の反応には大きな温度差がありました。
映画に最も協力的だったのが長女のアンドレア・ペロンさんです。
アンドレアさんは自費出版の三部作
『House of Darkness House of Light』
を通じて、映画では表現しきれなかった10年間の詳細を記録し続けました。
「映画を観て私たちのストーリーを知ったと思っている人がいるなら、
それは大きな間違いです。
大まかな輪郭は捉えていますが、
私たちの歴史の真に細かい線は著書にしか書かれていません。
10年の歳月を2時間に凝縮することなど不可能なのです」
しかし、三女のクリスティーン・ペロンさんは
当時のトラウマ的な記憶を思い出すのを拒み、メディアへの出演を頑なに避けているといいます。
映画公開後に現地調査を行ったノーマ・サトクリフさん(当時の現住人)は、
土地登記や死亡記録を徹底的に調査した結果、
映画で語られた
- 殺人
- 首吊り
- 魔女の呪い
といった言説のほぼすべてが「根拠のない創作話」だったと立証しています。
『死霊館』映画公開後に農家で起きた波乱の出来事
現住人への不法侵入と訴訟
映画が「実際に起こった話」として宣伝され、実在の地名が大きく取り上げられたことで、現地に深刻な実害が生じました。
1987年から農家に平和に暮らしていた
ノーマ・サトクリフさん
ジェラルド・ヘルフレッジさん
の夫妻の生活が、映画公開を機に激変したのです。
公開後わずか数日で、昼夜を問わずゴーストハンターやファンが敷地に侵入し、
- フェンスを乗り越える
- 窓を叩く
- 無断で動画を撮影してYouTubeに投稿する
という騒動が起きました。
執拗な侵入と脅迫に精神的苦痛を受けたサトクリフさん夫妻は、
2015年にワーナー・ブラザースを相手取り、
セキュリティ費用と精神的損害賠償を求める訴訟を起こしました。
この訴訟は、エンターテインメント業界が
実名・実在の場所をホラー映画の舞台として商業利用する際の責任を問う、重大な先例となりました。
モデルになった物件の高騰と泥沼の法的紛争
観光地として改変し、大成功
サトクリフさん夫妻が退去した後、
農家は「オカルト観光地」として巨額の資金が動く投資物件へと変貌します。
2019年にオカルト愛好家のコリー&ジェニファー・ハインゼン夫妻が
この物件を約44万ドル(約6500万円)で購入し、
一般向けのゴーストツアーを開始したところ予約が殺到して商業的に大成功を収めました。
別の業者が買い取るが、泥沼の法的騒動に
その後、2022年に不動産開発業者のジャクリーン・ヌニェスさんが
152万5,000ドル(約2.3億円)という超高額で買い取りましたが、
その後のトラブルは映画さながらの混乱となります。
不動産業者のヌニェスさんは
- 騒音トラブル
- 労働保険未加入
を理由に町議会からライセンスを剥奪され、精神状態が急速に不安定に。
「農家の18世紀の住人ジョン・アーノルドの幽霊から、
部下が金を盗んでいると警告された」
と主張して運営責任者を突然解雇したかと思えば、
飲酒運転によるパトカーとのカーチェイスで逮捕されるなど、事態は混迷を深めていきます。
住宅ローンの債務不履行により農家は差し押さえとなり、
有名なゴーストハンターのジェイソン・ホーズさんが17万ドル以上の資金を集めて購入を試みました。
しかし、不動産業者のヌニェスさんの実姉が
「妹は売却当時に精神的な判断能力を欠いていた」
として、ゴーストハンター・ホーズさんの買収差し止めを求める訴訟を起こし、いま現在も法的紛争が続いています。
ステージ4の乳がんを患うペロン一家の長女アンドレアさんは、
SNSでゴーストハンター・ホーズさんに向けて
「どうか農家を救ってほしい」
と悲痛な訴えを投稿しています。
映画『死霊館』がもたらした名声と商業的熱狂は、
スクリーンを遥かに超えて関係者たちの人生を今なお激しく揺るがしています。
まとめと人気の実話解説記事
- 映画『死霊館』は実際に起きたとされるペロン一家の心霊体験を元にした作品だった
- 「呪いの魔女バジバ・シャーマン」の設定は史実とは大きく違い、実際には信仰深いキリスト教徒だった
- 農家を最も苦しめた怨霊は映画と異なり、アビゲイル・アーノルドを含む複数の霊だったとされる
- 映画のクライマックスである「悪魔祓い」は実際には行われておらず、降霊会の後にウォーレン夫妻は追い出されていた
- 映画公開後、現住人への不法侵入が多発し、農家は高騰・転売を繰り返して現在も法的紛争が続いている
- ペロン一家の長女アンドレアさんは詳細を自著に記録し続けながら、ステージ4の乳がんと闘い続けている