2018年に公開されたドキュメンタリー映画『全く同じ三人の他人』は、
生後すぐに引き離された一卵性三つ子が19歳で奇跡的に再会し、
その裏に隠された衝撃の秘密実験が暴かれていく実話を描いた作品です。
この記事では、
- 映画『全く同じ三人の他人』の実話の概要
- 実際の三つ子と秘密実験の詳細
- 実話の時系列(誕生から映画公開まで)
- 映画と実話の決定的な違い
- 映画が描かなかった衝撃の事実
こちらを解説していきます。
『全く同じ三人の他人』は実話を元ネタにした作品
結論から言うと、『全く同じ三人の他人』は実際に起きた出来事をそのまま記録したドキュメンタリー映画です。
1980年にニューヨークで起きた「一卵性三つ子の奇跡の再会」、
そしてその裏に潜んでいた精神科医ピーター・B・ニューバウアーさんらによる
「秘密の双子・三つ子分離実験」が、この映画の軸となる実話。
ティム・ウォードル監督が5年以上の歳月をかけて制作し、2018年に公開されました。
心温まるはずの再会劇が、やがて人権侵害の告発へと変わっていく構成が世界中に広まり、
科学倫理のあり方を問う大きな議論を巻き起こしました。
三つ子とニューバウアー実験とは
映画の主役となる三つ子は、1961年7月12日にニューヨークで誕生しました。
生物学的な母親は精神疾患を抱えた未婚の女性で、
生後6ヶ月のうちに「ルイーズ・ワイズ・サービス(LWS)」という養子縁組仲介機関を通じて、
それぞれ異なる社会経済的背景の家庭へ引き離されました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名前 | ロバート・シャフラン/エドワード(エディ)・ギャランド/デイヴィッド・ケルマン |
| 生年月日 | 1961年7月12日 |
| 出身地 | ニューヨーク州(米国) |
| 出自 | 精神疾患を持つ未婚女性を生物学的母に持つ一卵性三つ子 |
| 養育環境 | 富裕層・中流階級・労働者階級の3家庭に分離 |
この分離に目をつけたのが、児童開発センター(CDC)の所長ピーター・B・ニューバウアーさんです。
ニューバウアーさんは
「遺伝と育成(環境)のどちらが人格形成に影響するか」
を検証するため、分離された子どもたちを追跡調査の対象に。
養父母には「一般的な児童発達調査」と偽っていたため、
三つ子が兄弟であるという事実は互いに完全に隠されていたのです。
三つ子に行われた秘密実験の実話を時系列で解説
1950年代後半:分離方針の誕生
コロンビア大学の精神科医ヴィオラ・W・バーナードさんが、
LWSの顧問として
「多胎児は分離して育てることが個性の発達に有益だ」
という方針を提唱します。
「双子を一緒に育てると養母の育児負担が倍になる」
「互いの個性が埋没する」
という考えに基づくもので、これが後に多くの子どもたちの人生を変えることになります。
1960年:秘密実験の設計
ピーター・B・ニューバウアーさん率いる児童開発センター(CDC)が、
LWSの分離方針を活用した「双子・三つ子分離追跡研究」を正式に設計します。
米国連邦政府の国立精神衛生研究所(NIMH)からも公的資金が一部助成されていたことも、後に明らかになっています。
1961年7月12日:三つ子の誕生
精神疾患を抱えた未婚のユダヤ人女性から、一卵性の三つ子が誕生します。
調査によると、
実際には四つ子として生まれ、うち一名は出生時に亡くなっていたとされています。
1961年(生後6ヶ月):3家庭への分離
三つ子の
- ロバート・シャフランさん
- エドワード(エディ)・ギャランドさん
- デイヴィッド・ケルマンさん
の3人は、LWSの判断によってそれぞれ異なる社会経済的背景の家庭へ引き渡されました。
ロバートさんは裕福な医師の家庭へ、
エドワードさんは中流家庭へ、
デイヴィッドさんは労働者階級の家庭へ。
また実験のコントロールとして、
3つの家庭にはそれぞれ2歳年上の「養子の姉」がすでに置かれていました。
家族の構成を一定に保つことで、環境の違いによる影響を、より精密に評価しようとしていたわけです。
1961年〜1979年:18年間の秘密調査
ニューバウアーさんの研究チームは、養父母に
「一般的な児童発達調査」と偽り、各家庭を定期的に訪問します。
- 身体測定
- IQテスト
- 特定タスクの撮影
- 家族間の相互作用の観察
など、あらゆるデータが12年以上にわたって収集されました。
各被験者のデータは他の兄弟のデータと比較できるよう厳格にコード化されており、
家族は実験の全体像を一切知らされていなかったのです。
1978年:ロバートさんが起こした強盗致死事件
1978年1月23日、ロバート・シャフランさんが
83歳の女性エロディ・ヘンシェルさんに対する強盗致死事件に関与します。
裁判記録によれば、ロバートさんは同級生のモーガン・グッドマンさんらと共謀し、
ヘンシェルさんの自宅を狙ってダイヤモンドの指輪を奪う計画を立て、現場への移動手段を手配しました。
計画実行の際、主犯のグッドマンさんはヘンシェルさんの頭部をバールで殴打して殺害。
ロバートさんはのちに第1級致死罪で有罪答弁を行い、
主犯への証人として協力する司法取引に応じた結果、
実刑を免れて執行猶予処分となりました(1979年9月28日)。
1980年:奇跡の再会とメディアの熱狂
カレッジに入学したロバートさんが、
前年に在籍していたエドワードさんと誤認されたことをきっかけに2人が再会。
その報道を見たデイヴィッドさんが合流し、三つ子の再会がメディアで大々的に報じられました。
ニューヨークをはじめ全米のメディアが競って彼らを取り上げ、3人はたちまち人気者・有名人となったのです。
1980年代前半:レストランと商業的成功
メディアの注目を一身に集めた三つ子は、
ニューヨークのソーホーにステーキハウスを開業します。
東欧系ユダヤ人のソウルフードを提供するこのレストランは商業的にも成功し、連日にぎわいました。
1990年:研究データの封印と著書の出版
ニューバウアーさんは研究成果の一部を反映した著書『Nature's Thumbprint』を出版します。
同時期に、研究データの一式はイェール大学へ寄贈され、2065年まで封印する措置が講じられました。
当事者たちへの通知や同意は一切なく、この封印措置自体も長年にわたって秘匿されていたのです。
1995年:エドワードさんの死
三つ子の一人、エドワード(エディ)・ギャランドさんが自殺します。
エドワードさんは双極性障害を患い、兄弟間や養父との関係に深く苦しんでいたとされています。
本来、多胎児は「双子の絆」が精神的な支柱として機能するため、一般の子どもより自殺率が低いとされています。
しかし強制的に分離されたことでその絆が育まれなかったことが原因で、
精神的な弱さが生まれた可能性が高いと考えられているのです。
2003年:双子ポーラさんとエリースさんの告発
同じ分離実験の対象だった双生児、
ポーラ・バーンスタインさんとエリース・シャインさんが35歳で再会します。
2人は2007年に共同回顧録『Identical Strangers』を出版し、ニューバウアー実験の実態を世に告発。
これが後の映画制作への道を開くきっかけの一つとなりました。
2018年:映画公開と世界への衝撃
ティム・ウォードル監督によるドキュメンタリー『全く同じ三人の他人』が世界公開され、大きな社会的反響を呼びます。
映画はアカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞の候補にもなり、
- 科学倫理
- 養子縁組制度
- 遺伝と環境
をめぐる議論を世界規模で巻き起こしました。
ちなみに、イェール大学の研究データが公式に公開されるのは2065年10月25日の予定とされています。
映画『全く同じ三人の他人』と実話の違い
| 項目 | 映画での描写 | 実際の事実 |
|---|---|---|
| ロバートさんの犯行 | ほぼ触れられない | 再会2年前に強盗致死事件に関与・執行猶予 |
| 実験の主犯 | ニューバウアー博士が主犯格 | 分離方針を最初に考案したのはバーナード博士 |
| 研究の公表 | 「完全な沈黙」 | 1986年・1990年に一部出版・学術発表あり |
| ユダヤ的な文脈 | ほぼ描かれない | 関係者のほぼ全員がユダヤ人・ユダヤ機関が関与 |
| 訴訟が阻まれた理由 | 詳細不明 | LWSのニューヨーク司法界への影響力が原因 |
ロバートさんの犯罪歴が映画で描かれていない
映画では、ロバート(ボビー)さんは
「突然カレッジで人気者と間違われた、運命的な再会の主人公」
として好意的に描かれています。
しかし、彼が再会を果たすわずか2年前の1978年1月に、
83歳の女性に対する強盗致死事件に関与していた事実は、映画内でほぼ完全に黙殺されているのです。
ロバートさんは第1級致死罪で有罪答弁を行い、執行猶予処分を受けていました。
この事実を省くことで、映画はロバートさんを「純粋な悲劇の被害者」として単純化しているとの批判が、映画公開後に相次ぎました。
実験の「主犯」は映画と異なる
映画では、オーストリアからの難民であるニューバウアーさんが、
冷酷な科学者として子どもたちを引き離した主犯格のように描かれています。
しかし実際には、双子の個別配置をLWSの公式方針として確立したのは、コロンビア大学精神科医のヴィオラ・W・バーナードさんでした。
バーナードさんは
「双子を分離させることが子どもの精神的健康にとって有益だ」
という医学的確信を持っており、それが方針として先に存在していたのです。
ニューバウアーさんは、すでに分離されていた子どもたちの存在を知り、
後からその研究を「載せた」に過ぎないという見方が有力です。
研究結果は「完全な沈黙」ではなかった
映画は「研究結果は一度も公表されなかった」と思わせるような構成になっています。
しかしニューバウアーさんは1990年に著書『Nature's Thumbprint』を出版し、
実験対象の双子のパーソナリティ形成について言及していました。
また1986年には、同僚のサミュエル・エイブラムスさんが実験データの一部を
「エイミーとベス」という仮名の双子として学術誌に発表しています。
不完全ながらも一部は外部に出ていたため、映画が示唆するような「完全な沈黙」とは異なる事実があったわけです。
映画『全く同じ三人の他人』が描かなかった衝撃の事実
実験の規模と精神疾患リスクの隠蔽
イェール大学の公式目録では11名の被験者が登録されていますが、
実際には少なくとも5組の一卵性双生児と
1組の三つ子を含む最低13名の子どもたちが実験の対象でした。
さらに実験から除外されながらも、
同様の分離政策によって引き離された二卵性双生児も少なくとも6組確認されています。
また特に深刻なのが、
生物学的な親が抱えていた重度の精神疾患の病歴が、養父母に意図的に隠されていたことです。
子どもたちが後に精神的な問題を抱えた際、事情を知らない養父母は
「自分たちの育て方が悪かったのではないか」
という罪悪感に長年苦しむことになりました。
訴訟が阻まれた本当の理由
三つ子の家族らがLWSに対して法的措置を取ろうとした際、
ニューヨークのあらゆる有力法律事務所から断られました。
その理由は、ルイーズ・ワイズ・サービス(大手のユダヤ系養子縁組斡旋機関)
がニューヨークの政財界と司法界に強大な影響力を持っていたためです。
LWSを訴えれば、
将来的にその事務所の若手弁護士が養子縁組を希望した際にLWSから事実上の排除を受ける可能性があり、
事務所側はそのリスクを避けたとされています。
この「司法アクセスからの排除」という権力構造の実態は、映画ではほとんど説明されていません。
双子ポーラさんとエリースさんが証明した遺伝の力
同じ実験の対象だった双生児のポーラ・バーンスタインさんとエリース・シャインさんは、
全く異なる環境で育ったにもかかわらず、再会した際に驚くべき共通点を持っていました。
- 2人とも大学で映画製作・映画批評を専攻していた
- ともに若い頃から重度のうつ病の再発に苦しんでいた
- キーボードを叩く前に指を空中で動かす「エア・タイピング」という同じ身体的癖があった
- 2人とも『不思議の国のアリス』の人形を未開封のまま自宅にコレクションしていた
ポーラさんはインタビューでこう語っています。
「遺伝子は私たちのパーソナリティの少なくとも50%以上を決定づけていると確信せざるを得ない。
それでも、残りの50%は、出会った人々や、
育んでくれた家族との関係性のなかで形作られるものだ」
決定論的な見解を排しながらも、遺伝の影響の大きさを認めた言葉です。
分離が多胎児の自殺率を高めた
遺伝統計学の研究者ナンシー・セガル博士によれば、
本来、一卵性・二卵性を問わず多胎児は一般の子どもと比べて生涯の自殺率が低いとされています。
これは多胎児特有の「双子の絆」が、青年期以降の精神的苦痛に対する緩衝材として機能するためです。
ところが、ニューバウアー実験の対象者のうち、
エドワードさんを含む少なくとも3名が自死を遂げています。
これは統計的に異常な高確率であり、
強制的な分離が多胎児にとって致命的な精神的脆弱性をもたらした証拠だと考えられています。
映画『全く同じ三人の他人』で監督が伝えたかったこと
ティム・ウォードル監督は、本作のテーマについてこう語っています。
「映画を特殊なユダヤ人社会の物語として終わらせるのではなく、
すべての人類に通じる普遍的なアイデンティティと
自由意志の探求というテーマに昇華させたかった」
この映画が問いかけているのは、「実験の善悪」ではありません。
「自分が自分である理由は、遺伝か環境か」
という、誰もが一度は抱く問いに正面から向き合う作品ということです。
三つ子が示した驚異的な類似性は遺伝の力の大きさを物語る一方で、
エドワードさんの悲劇は
「人間は実験動物ではない」
という当然の事実を、再び私たちに突きつけています。
1980年に三つ子の再会が報道された直後、
ニューヨーク州は多胎児を養子縁組の際に強制的に分離することを法律で明確に禁止しました。
またアメリカ心理学会(APA)も、
自らの意思で治療を決断する判断ができない人間を対象とした研究を完全に禁止する基準を確立しています。
どれほど高潔な目的を掲げていようとも、
一人ひとりの人間を
「実験の道具」として扱う権利は誰にも存在しない
この事件はそのことを、改めて私たちに教えているのです。
まとめと人気の実話解説記事
- 『全く同じ三人の他人』は、一卵性三つ子の実話を記録したドキュメンタリー映画だった
- 三つ子は1961年に生まれ、生後6ヶ月でそれぞれ異なる社会階層の家庭へ分離された
- 分離の裏には、精神科医ニューバウアーさんらによる「遺伝と環境」をめぐる秘密実験があった
- 映画ではロバートさんの犯罪歴や、実験方針の本来の考案者であるバーナードさんの主導権が省略されている
- 三つ子の一人エドワードさんは1995年に自殺し、実験対象者の少なくとも3名が自死を遂げている
- 研究データはイェール大学に封印されており、公式公開は2065年10月25日の予定とされている