2017年公開の映画『全員死刑』は、福岡県大牟田市で実際に起きた凄惨な連続殺人事件をモデルにした作品です。
この記事では、
- モデルとなった大牟田4人殺害事件の詳細
- 事件の時系列と経緯
- 映画と実話の主な違い
- 「一家全員死刑」がなぜ異例なのか
- 原作者・鈴木智彦さんが映画を批判した理由
こちらを解説していきます。
『全員死刑』は実話を元ネタにした作品
結論から言うと、映画『全員死刑』は実際に起きた事件が元ネタです。
2004年9月に福岡県大牟田市で発生した「大牟田4人殺害事件」がモデルで、
暴力団組長の父を筆頭に母・長男・次男の一家4人が共謀して4人を連続殺害した事件でした。
原作は、次男の北村孝紘さんから届いた獄中手記をもとに
犯罪ライターの鈴木智彦さんが執筆したノンフィクション本『全員死刑:大牟田4人殺害事件「死刑囚」獄中手記』(小学館文庫)です。
映画化したのは小林勇貴さん監督で、主演に
- 間宮祥太朗さん
- 平田薫さん
- 渋川清彦さん
を迎えて2017年11月に公開されました。
ただし、映画は原作の完全な再現ではなく、
小林勇貴さんが大幅に脚色しているため「実話に着想を得たフィクション」に近い内容になっています。
大牟田4人殺害事件とは
事件の主犯は、福岡県大牟田市に住んでいた北村一家の4人です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 氏名 | 北村実雄(父・暴力団組長)、北村真美(母)、長男、北村孝紘(次男) |
| 所属 | 指定暴力団道仁会村上一家「北村組」 |
| 借金額 | 2004年9月時点で約6,600万円以上 |
| 死刑確定 | 2011年10月(最高裁) |
父の北村実雄さんは暴力団「北村組」の組長で、
妻の北村真美さんが「姐(あね)」として資金管理を一手に担っていました。
事件当時、北村家は6,600万円以上の借金を抱え、暴力団への上納金の支払いにも窮していた状況でした。
被害者の4人
| 被害者 | 年齢 | 関係 | 殺害日 |
|---|---|---|---|
| 高見穣吏さん | 15歳 | 高見小夜子さんの次男 | 2004年9月16日 |
| 高見小夜子さん | 58歳 | 闇金業者・北村家の知人 | 2004年9月18日 |
| 高見龍幸さん | 18歳 | 高見小夜子さんの長男 | 2004年9月18日 |
| 原純一さん | 17歳 | 高見龍幸さんの友人(偶然居合わせた) | 2004年9月18日 |
被害者は全員、高見小夜子さんの家族とその友人です。
特に原純一さんに至っては、たまたま現場に居合わせてしまっただけで命を奪われており、事件の理不尽さをより際立たせています。
実話の時系列
事件前:北村家と高見家の関係
北村家と高見家はもともと家族ぐるみで付き合いのある間柄でした。
ところが高見小夜子さんは無登録の金融業(いわゆる闇金)を営んでおり、北村家もそこから借金をしていたのです。
次第に高見さんから「見下される」と感じるようになった北村真美さんが夫の北村実雄さんや長男に話し、
北村家全体の高見さんへの敵意が強まっていきました。
2004年9月9日:殺害計画の始まり
北村真美さんが自宅で夫の北村実雄さんに借金の実情を打ち明けたところ、
北村実雄さんから
「高見を殺してあの家の金を奪う」
という話が出ました。
これが一連の殺人計画の始まりとなりました。
2004年9月16日:最初の殺害(高見穣吏さん・15歳)
まず長男と次男の北村孝紘さんの兄弟が高見家に侵入し、金庫をこじ開けて貴金属を奪いました。
その夜、二人は高見穣吏さん(15歳)を自宅から連れ出しています。
長男が体を押さえつけ、北村孝紘さんがロープで首を絞め、
コンクリートブロックを3か所に縛りつけたうえで諏訪川の橋の上から投げ込んだのです(9月17日0時ごろ)。
2004年9月18日:3人を連続で殺害
高見小夜子さんの殺害
長男と北村孝紘さんがあらかじめ睡眠薬を混ぜた弁当を高見小夜子さんに食べさせ、眠り込んだところを車内で絞殺しました。
高見龍幸さん・原純一さんの殺害
その後、帰宅した高見龍幸さん(18歳)と、たまたま一緒にいた友人の原純一さん(17歳)を拳銃で射殺しました。
原純一さんにはさらにアイスピックで突き刺して確実に命を奪っており、その徹底した残酷さが裁判でも改めて問題視されたわけです。
遺体の遺棄
3人の遺体を軽自動車(ワゴンR)に積み込み、諏訪川に沈めました。
9月23日、「馬沖橋」下流約350m地点で車が発見され、車内から3人の遺体が見つかっています。
逮捕・裁判と判決
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2004年9月下旬 | 北村一家が逮捕 |
| 一審(福岡地裁) | 一家4人全員に死刑判決 |
| 二審(福岡高裁) | 控訴棄却、死刑維持 |
| 2011年10月 | 最高裁が上告棄却。一家全員の死刑が確定 |
| 2025年3月6日 | 北村実雄死刑囚が肺炎で獄中死(享年81歳) |
裁判では父の北村実雄さんが「自分一人が主犯だ」と主張し、長男も大部分の罪を否認しました。
一方、母の北村真美さんと次男の北村孝紘さんは起訴事実を認めています。
最高裁は「4人を殺害した動機は現金強奪と証拠隠滅であり、冷酷かつ残忍で死刑以外の選択肢はない」
と判断し、一家全員の死刑が確定しました。
映画『全員死刑』と実話の違い
| 項目 | 映画での描写 | 実際の事実 |
|---|---|---|
| 舞台 | 静岡弁ベースのオリジナル設定 | 福岡県大牟田市 |
| 家族構成 | 父・母・息子2人の4人家族 | 同じ(父・母・息子2人) |
| 被害者の設定 | 資産家一家からの現金強奪 | 闇金業者の高見一家への怨恨+金品強奪 |
| 主人公の彼女 | 「カオリ」という一人の女性 | 長男・次男それぞれに別々の交際相手がいた |
| 被害者の長男 | YouTuberという設定 | YouTuberではない |
| 事件の推移 | 映画的に整理・改変 | より複雑な人間関係・経緯 |
舞台と方言が変わっている
実際の事件が起きたのは福岡県大牟田市ですが、
映画では静岡弁をベースにしたオリジナルの方言設定になっています。
地名や土地の描写も実際とは異なっており、舞台は完全に作り変えられたと考えてよいでしょう。
被害者の設定が大きく異なる
映画では被害者を「資産家一家」として描いていますが、
実際の被害者の高見小夜子さんは闇金業者でした。
実際の事件では、
長年の恨みや借金問題・見下されてきた
という感情が絡み合った複雑な恨みが動機の根っこにあり、単純な強奪とは異なる経緯だったのです。
「カオリ」という人物は実在しない
映画では長男の彼女として「カオリ」という人物が登場します。
実際には長男・次男それぞれに別々の交際相手がいたとされており、
映画の「カオリ」は複数の人物を一人に統合した創作キャラクターです。
なぜ「一家全員死刑」は異例なのか
日本の刑事司法において、
一家4人全員に死刑判決が確定したケースは、この大牟田4人殺害事件が唯一
とされています。
世界的に見ても、複数の家族全員が死刑を受けたケースは非常にまれで、「世界でも類を見ない」と評されることがあります。
2025年3月時点では、父の北村実雄さんが肺炎で獄中死しています(享年81歳)。
残り3人(母・長男・次男)の死刑はまだ執行されていない状況です。
原作者・鈴木智彦さんが映画を批判した理由
原作者の鈴木智彦さんは、映画について小林勇貴さん監督を公開批判しています。
鈴木智彦さんはその内容について、
「無残に殺された被害者を道化にされて開き直られた」
と述べています。
映画の大幅な脚色が被害者の尊厳を傷つけるものだと感じたのでしょう。
実際に命を奪われた4人の被害者がいる事件である以上、その描き方には慎重さが求められるわけです。
映画を観る際は、あくまでもフィクション色の強い作品であることを念頭に置いておくとよいでしょう。
まとめと人気の実話解説記事
- 映画『全員死刑』は2004年に福岡県大牟田市で起きた「大牟田4人殺害事件」が元ネタの作品だった
- 主犯の北村一家は父・母・長男・次男の4人で、全員が死刑判決を受けた異例の事件だった
- 被害者4人のうち原純一さんはたまたま現場に居合わせただけで命を奪われた
- 映画では舞台・被害者の設定・登場人物が大きく変更されており、実話に着想を得たフィクションに近い内容になっている
- 「一家全員死刑」の判決確定は日本の司法史上唯一のケースとされている
- 原作者の鈴木智彦さんは映画の脚色について小林勇貴さん監督を公開批判している